JFAファーデザインコンテスト2019
最終審査会・表彰式レポート
「JFAファーデザインコンテスト2019」の受賞作品
ファッションが教えてくれる、ファーの本質的な価値
東京・東銀座の時事通信ホールで開催された、年に一度のファーの祭典「JFAファーデザインコンテスト」。コンテスト当日は、毛皮を取り扱うメーカー関係者を中心にメディアやアパレルバイヤー、服飾専門学校生や大学生までが多数来場し、授賞式の開始前から早くも熱気が溢れ、緊張感のある雰囲気が会場全体を包み込んでいました。
同コンテストは、最高品質なリアルファーを取り扱うことができる国内唯一の大会でありながら、近年は国内のみならず世界各国で開催されるなどワールドワイドな人気を博していることが大きな魅力として挙げられます。
また日本毛皮協会(JFA)では、また来年度を目安に福祉や環境、サスティナビリティなどの各審査項目を高い水準でクリアした製品を世に送り出すことを名目にした、ファーマーク・プログラムも実施中。もちろんこれまでと同様に毛皮協会に加盟する各メーカーと連携し、学生や若い才能を持ったデザイナーたちへの支援を行なっていく一方で、循環型経済への貢献や伝統あるナチュラルファーの歴史を次世代へと繋いでいく取り組みも積極的に行なっています。
1979年の初開催から今年度で18回目となる同コンテスト。「活かそう、自然からの贈り物」のテーマのもと、毛皮が持つ素材や特性を活かしながら、社会的な問題に対してもきちんと向き合い、ファッションを通して取り組んでいくことの重要性を大切にしてきました。また作品制作においても学生たちの力はもちろん、協力会社としてサポートするメーカー各社のスタッフとのコミュニケーションも生まれ、いわば企業と学生の貴重な出会いの場、さらには将来の有力デザイナーを育成する環境としての側面も担っています。
傑作揃いの混戦となった、最終審査会の模様
総勢2413名による激戦を勝ち抜いたファイナリストたちによる、渾身の作品が登場した最終審査会。恒例となったランウェイ形式のプレゼンテーションによって審査員へ個別にアピールする時間を設け、厳正なる審査のもと、最終的に各賞を決めていきます。
例年にも増してハイクオリティな作品群を前に、大御所スタイリストや人気デザイナー、著名なジャーナリストが名を連ねた審査員陣もジャッジには頭を悩ませていた模様。
そんな混戦となった本年度、最終的には満場一致で栄えあるグランプリに輝いたのは、名古屋モード学園出身の吉田 千尋さん。結果発表の際には、驚きを隠し切れない吉田さんへ会場全体から万雷の拍手が送られました。
今回、授賞した全5作品からは、各審査員からの言葉にあったように若者らしい解釈をベースにしながら、ストリートカルチャーやアニメなどの今季らしいトレンドから受けるインスピレーションや、毛皮が本来持つ魅力を最大限に活かしたデザイン、持続可能な実用的なアプローチなど、時代性を反映した作品が数多く見られたのも印象的でした。
社会的な課題や役割を多く抱える毛皮という伝統ある素材を、ファッションという手法によっていかにして活かしていくのか。今後のシーンを担っていくであろう、若き才能溢れるクリエイターたちの活躍に期待せずにはいられません。
審査員の各コメント
【村上要 WWD JAPAN.COM編集長】
北村さんがおっしゃっていたように斬新なアイデアがとても面白かったです。特にストリートとかアニメっぽいカルチャーに由来するスタイルや、素材の一部を布帛やデニムに切り替えて表現することで、毛皮を“自分ゴト”していることに大変感銘を受けました。その一方でやっぱり長く着られる洋服でもあって欲しいなっていう想いもあって、そんなところで今回上位に入選した方々の作品というのは、いずれも面白い中に普遍的で長く着られるデザインであったという点が良かったのかなと思っています。お疲れ様でした。
【馬場圭介 スタイリスト】
このコンテストに審査員として参加するのは、今年で3回目になるのですが、毎年レベルが上がっているので、とても楽しみにしていたのですが、今回は特に出来栄えが良くて非常にびっくりしています。その中でもグランプリに輝いた作品は嫌味もなく、気品があり、スタイリスト目線で見ても例えばレディー・ガガが着てもめちゃくちゃカッコいいのでは?と思うくらい、よく出来ていたと思います。それとメーカーさんの技術の高さと熱意、努力には感服いたしました。ありがとうございました。
【マリア・オットセン コペンハーゲン・ファー 職人】
今回コンテストに参加された皆様が「自然からの贈り物」というテーマのなかで取り組まれたことをとても良いことだと思い、同時に嬉しく思いました。また毛皮職人の立場としては、毛皮のテクニックを果敢に使われていたことが印象的でした。また審査に関しては、皆さんが毛皮という素材をどのようにして活かされているかという点を重視し、ジャッジをさせていただきました。これからも毛皮という素材を使ってデザインを続けていかれることを心から願っております。ありがとうございました。
【坂部三樹郎 MIKIO SAKABE デザイナー】
僕も今回で観させていただくのは3回目で、毎回思うことでもあるのですが、ファーを着た時の存在感が印象に強く残るし、若いデザイナーが高価な素材を使って表現できるというのが、唯一このコンテストだけな気もしているので、とても良い機会だなと改めて思いました。世に出回っている一般的な素材だけを使うわけでもないので、今までよりもひとつもふたつもステージのレベルが上がっていると思うし、そうしたことも混ざり合って強いものになっているんだなと感じました。ありがとうございます。
【中島英恵 ファッションディレクター/コンサルタント】
今回初めて審査員に加わらせていただくことになりまして、デッサンの段階から2400以上のデザインを見させていただき、デザインや素材に対する想いを図り知った上で、短期間でこのような作品とショーを拝見させていただき、豊かで美しいものに仕上がっていて、改めてびっくりしています。その才能はもちろん、テクニックや表現を通してファーの素晴らしさも感じることができて、ただただ感激した部分もあったんですが、これからも素材の進化や共存、新しい可能性という部分にも期待しながら楽しみたいなと思いました。
表彰式の様子
◇最終審査会・表彰式
2019年11月20日(水) 東京・東銀座 時事通信ホール
◇主催
一般社団法人 日本毛皮協会(JFA)
◇後援
経済産業省、デンマーク大使館 ※順不同
◇協力
国際毛皮連盟、コペンハーゲンファー、サガ・ファー、香港毛皮業協会、東京毛皮商工業協同組合 ※順不同
◇各賞受賞者
●グランプリ:吉田 千尋(名古屋モード学園)
賞状、賞金50万円及び副賞(サガデザインセンター研修旅行及び2020香港インターナショナルファー&ファッションフェア招待)
●優秀賞:斎野 真央(宮城文化服装専門学校)
賞状、賞金20万円及び副賞(コペンハーゲンスタジオ研修旅行)
●コペンハーゲン・ファー賞:唯野 礼菜(東京モード学園)
賞状、賞金10万円及び副賞(コペンハーゲンスタジオ研修旅行)
●サガ・ファー賞:杉本 知春(一般)
賞状、賞金10万円及び副賞(サガデザインセンター研修旅行)
●HKFF賞:水野 巧(名古屋モード学園)
賞状、賞金5万円及び副賞(2020香港インターナショナルファー&ファッションフェア招待)
◇審査委員
馬場 圭介 (スタイリスト) 、北村 信彦(ヒステリックグラマー デザイナー)村上 要 ( WWD JAPAN.com 編集長) 、マリア・オットセン(コペンハーゲン・ファー 職人)坂部 三樹郎 ( MIKIO SAKABE デザイナー) 、中島英恵 (ファッションディレクター/コンサルタント) ※順不同敬称略
【北村信彦 ヒステリックグラマー デザイナー】
今回の審査をする上で毛皮が従来持つアイコン感とかエレガンスなムードは僕なりに排除して、参加している皆さんが若い世代ということもあって、ニュートラルで斬新なアイデアを基準に選ばせていただきました。それと同時にメーカー各社の高度なテクニックを見ることができて、すごく楽しかったです。ありがとうございました。